アーリーリタイアを考える人が知るべきこと(4) 死期を早める「孤独」という病






前回までは、アーリーリタイアに対して備えるべき資産準備に関してお伝えしてきました。


今回は医学的見地から、アーリーリタイアした際の健康面の問題を考えていきます。


死を早める孤独という病


日本を始めとした先進国では、これまでは食事、運動、肥満などのライフサイクル、あるいは環境汚染などといった環境要因と生存期間に関してはさまざまな研究がなされてきたものの、ストレスなどの心理的な要因による影響はあまり研究が進んでいませんでした。


米国のブリガム・ヤング大学、ランスタッド教授から、2015年に学術的インパクトのある知見が報告されましたので、読んでいきたいと思います (Loneliness and Social Isolation as Risk Factors for Mortality. Perspectives on Psychological Science 2015, Vol. 10(2) 227-37)。


教授らは「死」や「生存」という言葉、そして「社会的孤立」、「孤独」、「一人暮らし」といった言葉の両者を含む研究を1980年-2014年の期間内から抽出しています。条件として自殺や事故による死亡を含まないものとした上で計70報を抽出し、それらをメタ解析(多数の研究を統合的に解析する手法)により分析しています。


対象者は340万7100人、平均年齢は66歳、経過観察期間は約7年間でした。また、63%は健常者、37%は心臓病などの基礎疾患を持つ群でした。


分析の結果は驚くべきものでした。


人々との繋がりが無い「社会的孤立」により29%、「孤独感」により26%、「一人暮らし」により32%、それぞれ死亡リスクが高まることが報告されたのです


また、興味深いのは、社会的に孤立している人は、その人物の主観によらず有害であったことです


「一人でいると幸せを感じる」と回答した人も、「多くの社会的繋がりを有しているが孤独感がある」と回答した人も同様に死亡率が高かったのです


また調査開始時点の健康状態は、死亡率に影響していました。また性別や地域は死亡率には影響していませんでした。


また65歳以下のグループでも同様の結果を示していましたが、研究母数が少ないため、こちらは追加調査が必要と考察されています。


貧困と並ぶ孤独というリスク


もう一つ、シカゴ大学のカシオポ博士が報告した興味深い文献をお示しします。2014年2月にAAAS(米国科学振興協会)で行われた報告です (AAAS 2014: Loneliness is a major health risk for older adults)。


極度の孤独は高齢者において、死亡率を14%増加させる可能性があり、貧困が19%増加させるのと同じく、大きなリスクとしています。また肥満と比較しても、2倍のリスク要因と成り得るとの結果でした。


一般的に過剰なストレスは、睡眠不足や血圧上昇を招きその健康寿命を阻害するとされます。孤独感、ないし本人が自覚しないとしても孤独状態は人間本来の社会的生物という在り方からして、同様の機序から大きな負荷をその人にかけるのでしょう。


孤独を癒すはやはり人のみ


アーリーリタイアを実際に行った場合、職場との繋がりは消滅ないし弱まることとなりますので、職場の関係のみが人間関係の殆どを占める方、また独身の方はこういった身体的リスク面にも注意を要するだろうと思います。


先の文献でカシオポ博士は、孤独を乗り越えるための3つの繋がりとして下記を挙げました。


・自分を思ってくれる人との繋がり

・お互いに対面し同感できる人との繋がり

・グループや集団に属する繋がり


また、退職後に別の地域に移住することに憧れを抱く人もいますが、自分を最も知る人たちと離れることとなり、良いことだけではないとしています。


自分を気にかける人、そして集団との繋がりを折に触れて気掛け、そして繋がりを育てていくことが重要となってくるのだと思います。


不要なもの、残すもの


アーリーリタイアを考慮されている中には、ブラック企業など大変な職場で勤務されている方も居られると思います。その思いは大変切実と思いますし、経済的自由によって、是非希望とする人生を叶えてもらえればと思います。


しかし場合によっては、人間関係、そして健康面において失うものも有り得るという可能性を含めて、将来を考えて頂ければと思います。


最後に、医師の日常から感じる私見をお伝えします。


ご高齢になると多くの方は施設や自宅での介護状態となりますが、その時に楽しいか、そして幸せかどうかは、家族・同居人との繋がりだと私は痛感します。


誰も見舞いにこない方も居られれば、毎日家族の誰かが見舞いに来る方も居られ、その笑顔ややるせない顔を見ると今までの人生の縮図を見ているようにも思うのです。


ウォーレン・バフェットは、人生の最も重要なことは、「愛されたいと思っている人に愛されること」と言いました。


アーリーリタイアに当たっては経済的自由のみでなく、人生そのものを設計する必要があるのではないか、そう思います。




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2 件のコメント :

a-neko さんのコメント...
小塚崇史 さんのコメント...